大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)310号 判決

左記の諸事実は当事者間に争がない。すなわち、控訴人は昭和二十年六月頃被控訴人に対し、別紙添付の目録記載の家屋(以下本件家屋という)を、賃料は一ケ月二十七円、毎月末日払とし期間の定めない約で賃貸した。その後賃料は昭和二十一年四月分から一ケ月五十五円、昭和二十二年四月分から一ケ月百八十円に改められた。

控訴人は賃料を昭和二十四年六月分から一ケ月三百円、昭和二十六年一月分から一ケ月千五十円、昭和二十七年一月分から一ケ月千百円に、それぞれ当時増額を請求し、被控訴人の承諾をえたと主張し、被控訴人は右増額の請求のあつたことは認めるが承諾したことはないと主張するので、次に承諾の有無について判断する。成立に争のない乙第四号証、原審(第一回)及び当審での控訴人本人の尋問の結果によつて、成立の認められる甲第三号証及び原審(第一、二回)及び当審での控訴人本人の尋問の結果によれば、控訴人主張の被控訴人の承諾の事実が認められ、この認定に反する原審及び当審での被控訴人本人の尋問の結果は右各証拠に照し合わせて信用できず、他に右認定を動かすことのできる証拠はない。

控訴人が昭和二十八年十月二十四日付内容証明郵便で被控訴人に対し、昭和二十七年五月分の賃料未払額百円と同年六月分から昭和二十八年九月分までの延滞賃料合計金一万七千七百円を同書面到達後三日以内に支払うよう催告し、もしこの期間内に支払をしないときは本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をなし、同書面はその頃被控訴人に到達したことは、当事者間に争がない。

右延滞賃料の有無について、次に判断する。

本件家屋は地代家賃統制令の適用ある借家であり、同令に基く賃料の統制額は、昭和二十六年十月一日から昭和二十七年十一月三十日までは一ケ月三百八十三円、同年十二月一日から昭和二十八年三月三十一日まで一ケ月七百三円、同年四月一日から昭和二十九年三月三十一日までは一ケ月七百九円であることは、当事者間に争がない。前記認定の約定賃料は右統制賃料を超過するので、超過部分は地代家賃統制令第三条に反し無効である。昭和二十七年五月分の賃料として千円を受領したことを控訴人は自ら認めるので、同月分はすでに右統制額をこえて支払われているから延滞額はない。そこで、昭和二十七年六月分から昭和二十八年九月分までの賃料を統制額に従つて計算すると金九千三百六十四円となる。

被控訴人は控訴人に対し右期間の賃料として、昭和二十七年六月十五日から昭和二十八年九月十四日までの間に金一万五千六百円を弁済したと主張するので、次に判断する。前記甲第三号証、乙第四号証、成立に争のない甲第一号証、原審(第一、二回)及び当審での控訴人本人の尋問の結果によれば、被控訴人が右期間内に金一万三千七百五十円を支払つたが、これは昭和二十七年五月以前の賃料として支払われたものであることが認められる。この認定に反する乙第一号証の二、三、第十二号証、原審及び当審での被控訴人本人の尋問の結果は、右各証拠に照し合わせて信用できず、これらをおけば他に右認定を動かし被控訴人の主張事実を認めることのできる証拠はない。

被控訴人は控訴人のなした賃料支払の催告は統制賃料額を著しく超過する過大な催告で無効であり、その有効なことを前提とする解除の意思表示も効力を生じない、と主張するので次に判断する。前記認定のように被控訴人に支払義務ある延滞賃料は九千三百六十四円であつて、催告額一万七千七百円はその約二倍に当り、しかも統制賃料額を超える催告であるから過大な催告であると解するのを相当とする。昭和二十七年四月分までの前記約定賃料が支払われたことは控訴人の明かに争わないところであり、この事実と賃料に関する上記認定の諸事実によれば、右期間の賃料として控訴人が統制額をこえて受領した金額を合算すると、右延滞金より多いことが明かである。当審での控訴人、原審及び当審での控訴人の各本人尋問の結果によれば、控訴人は賃料の増額については正確に法令や計算の基礎となる事実の調査をしないで新聞の見出しや知人等からの不完全な情報のみで、勝手に自分に有利な金額を算出してこれに基く増額を請求し、被控訴人の疑問とするのをかえりみず承諾させて来たものであることが認められ、この認定を動かすことのできる証拠はない。このような事情のある本件では、被控訴人が統制額による延滞賃料だけの提供をしても、控訴人はその受領を拒絶するであろうことが推測できる。よつて右催告は無効であり、したがつて、この催告の有効なことを前提とする右条件付解除の意思表示もまた効力を生じないといわなければならない。

(村松 伊藤 土肥原)

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